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昨年のジャパンXボウルを糧に、今シーズンを戦うDEERS。 完敗に終わったその試合で、チームの中心にいた男は今、何を考えるのか。 新たな境地を、衰えぬ情熱で走り続ける男の、日本一への想いとは。 |
試合後の彼がロッカールームを出るのは、いつも決まって遅い。 慌しく後片付けに奔走するスタッフの脇で、両足にくまなくアイシングの氷を巻きつけ、熱を帯びている筋肉をゆっくりと冷やしていく。激しい衝突を繰り返した身体を労わり、次の戦いのために最高の準備をする。 ここ数年、彼のルーティーンは変わることがない。 ![]() 試合後、ロッカールームで栄貴浩はいつものようにアイシングを施し、つい先ほどまで、興奮状態を保ち続けた精神をシフトダウンするためベンチに腰を落ち着け、試合を振り返った。 「とりあえず、勝ててよかった。でも、反省点だらけ。次の対戦相手がこの試合を見たら、DEERSは狙いどころがいっぱいあるって思うやろ。2週間でどれだけ修正できるかが鍵やな」 栄自身はインターセプトを奪うなどの活躍を見せたが、300ヤード超を許したパス守備には納得のいかない様子であった。 「コンディションは良いし、次の試合でも良いパフォーマンスを見せたいね。次の対戦相手? どこでもええけど…電工とやりたいな」 普段から「この一戦の結果次第で一年間やってきたことの全てが決まるという試合は、プレーしていても楽しい」と話す栄。反省を口にしながらも、負けることの許されなかった試合の緊張感を回想し、もう一度それを味わうことのできる次なる戦いへ視線を向けていった。 【更なる高みへ】 「最近、プレーがやんちゃって言われるねん(笑)」 秋のリーグ戦開幕を間近に控えた、9月初旬。栄は茶目っ気たっぷりの表情でこう切り出した。 「思い切りが良くなってきた。まだ、慎重にやらなあかんところもあるけど、調子はあがっているよ」 今年、04年の副将就任以来6年ぶりに幹部を降りた栄。新たな気持ちで迎えたシーズンだったが、春から手の骨折、腰痛症などの不運に見舞われた。連覇を果たしたパールボウルもサイドラインから見届けた。 8月の合宿明け、リハビリを終えようやくチームに合流した栄は、リーグ戦の開幕に間に合ったという安堵を周囲に感じさせないほど、これまでの鬱憤を晴らすかのように、激しい闘志でフィールドを駆け回った。 「トレーニング中に腰を痛めたときは、やってしもたって思ったけどな。ようやく戻ってこれたわ」 心なしか、昨年より訛のきつくなった関西弁が余計にプレーできている嬉しさを強調しているようだった。 ![]() 「今年は攻めのプレーができていると思う。昨年までは、幹部という立場もあったし、俺がやられたらあかんと思っている部分は意識していなくてもどこかにあった。でも、今は、自分のプレーに集中できているし、周りのこともああだのこうだのと言えている。たまに、やりすぎかなって思うこともあるけど、ええんちゃうかな。やることやって楽しくできたら。別に敢えてやっている訳ではなく、元々はこんなキャラクターやからね」 フィールドだけではない。ミーティングでも栄がいるだけで、ディフェンスの雰囲気はピリっと引き締まる。 激しいプレーと的確な指示は、幹部時代とはまた違った方向からチームに計り知れない効果をもたらしている。 「まだ若い選手に譲るという気持ちはないな。教えることは教えるけど、みんなで競争できればいいと思っている。自分の力が落ちて、出場機会をシェアするのは不本意やけど、周りの選手が伸びて出場機会が減るのはウェルカム。そしたら俺も頑張ろうって思うし、若い選手からも学べることは学びたいと思っている」 もっとうまくなりたい。その貪欲な姿勢が、栄を更なる高みへと誘っているのだ。 【無駄をなくす】 今年31歳になった栄。体力的には衰えが出始めてもおかしくない年齢と言ってもいい。 そのことを問うと、本人は衰えを感じるどころか、「トレーニングの数値も上昇しているし、プレーも良くなっている」と言う。 「筋肉系の衰えというのは、全く感じていない。トレーニングも1回マックスでがーっと挙げるまでは、今の方が良い。ただ、持久力と回復力は落ちているかな。同じ練習でも、20代の時とは、身体の回復が全然違う」 さらに、目に見えない、表に浮き出てこない疲れは絶対にある。それを理解しているからこそ、身体のケアに細心の注意を払う。どんなに軽い運動の後でも、栄がアイシングを欠かすことはない。その徹底した意識が彼のパフォーマンスを支えているのだ。 ![]() 「昨年、一昨年のビデオを見ていたら、恐ろしく無駄な動きが多い。自分の目指している完成形とは程遠かった。でも、常に無駄をなくす努力はしているから、プレーの質は上がっていると思う」 栄の守備哲学。ことある毎に説明される無駄をなくすという理論は「俺自身は、全く能力がないと思っている」という考えから導き出されたものだ。 「だから、人一倍無駄をなくさないとボールキャリアに追いつかない。自分を苦しくするポジショニングとか、守るべき場所と関係のないところを見ていたりとか、そういうことをしていたら、能力の高い選手には絶対に勝てない」 そして、栄はこう続けた。 「いつも70点、80点くらいのプレーでええねん。その中でひとつだけ100点のプレーを狙っておく。100かゼロかという博打みたいなディフェンスでは、結果に一喜一憂してしまうし、外れたときには大ヤケドを負ってしまう」 試合中に見せる強烈なヒットから派手な印象がある栄のプレー。しかし、その本質は、大きなミスをしないという、ディフェンスバックとして当たり前の発想から成り立っている。相手に付け入る隙を与えず、一試合に何度も訪れることのないチャンスを確実にモノにできるよう、最良の選択を行い続ける。この集中力がビッグプレーを生み出しているのだ。 「まだ、力を発揮しきれていない若い選手は、能力がない訳ではない。でも、自分でなんとかしようとしすぎて動きが硬くなってしまっている。結果だけを求めるから判断が遅くなる。プロセスの方が大事やからね。何故その動きをするのかを理解すれば、どんな状況においても一定のレベルでプレーができるはず。それを繰り返していれば、いつか100点のプレーに巡りあえる」 栄自身も入部して間もない頃は、結果にこだわりすぎて大きなミスを犯してきた。しかし、それではコーチの信頼を得られないという反省からプレースタイルを変え、現在もなお、より質の高い動きを追及し続けている。 ![]() 【頂点への想い】 シルバースター戦の翌日。試合のレビューの後、栄は、試合直後と同じようにつぶやいた。 「やっぱり狙われそうなところがたくさんあるなぁ」 守備メンバーでのミーティングを終えた後も、思慮深げであった。 「電工には、一人ひとりが自分の仕事をやりきることが、勝つための絶対条件」 抽選の結果、準決勝の対戦相手は、パナソニック電工に決まっていた。 栄が主将としての最後の試合となった、昨年のジャパンXボウル決勝戦。DEERSは先制しながらもパナソニック電工の逆襲を受け、試合の途中からは成す術なく敗れた。 「電工に弱みを見せれば一気にやられる」 パナソニック電工の強さを肌で感じているからこそ、シルバースター戦で犯したようなミスはあってはならない。そう戒めるように言い、こう続けた。 「あとは、メンタル。昨年の決勝戦も全く歯が立たない訳ではなかった。でも、途中から全員が相手を過大評価してしまって、本来の動きができなくなってしまった。後でビデオを見てもこんなやられ方するはずではないのにって感じた。だから気持ちが大事やねん」 パナソニック電工戦の敗戦を糧に始動した、今シーズンのDEERS。 幹部を退いた栄だが、リベンジを果たしたいという思いは、当然他のチームメイトと同じように持ち続けている。 昨年の敗戦においてチームの中心として感じた、精神面の大切さは伝えなければならない。 「どれだけやられても、自分たちの気持ちだけはコントロールせなあかん」 確かめるように言った言葉は、仲間にメッセージを送っているようだった。 ![]() そのうち半分以上の5年を幹部として過ごし、チームの成長と共に歩んできた。 「9年の間に凄く良いチームになった」 それでも、未だ日本一という目標には到っていない。 「もうベテランって呼ばれてもええ齢や(笑)」 ひとりふたりと同期入部の選手がチームを去り、気が付けば守備メンバーでは上から3番目の年齢になった。 「優勝したらどんだけ嬉しいやろうなぁ」 『今年こそ』という、日本一への渇望は年を追うごとに強まっている。 しかし、強い想いとは裏腹に、近頃の栄は朗らかな表情を見せるようになった。 それは、経験に裏打ちされた自らのプレーに対する自信と、試合の緊張感を心の底から楽しめている証とも言えるだろう。 「電工に勝ったら? 優勝できるよ」 飄々と答えた栄。だが、その言葉には強い意志が込められていた。 (文章:岩根大輔) Profile 【さかい たかひろ】1978年1月6日生まれ 31歳 170cm 75kg 出身地:大阪府 ポジション:DB 所属:羽曳野市立峰塚中学校−私立大阪産業大学付属高校−専修大学−鹿島 詳細プロフィールは「Members」ページをご覧下さい。 ![]() 「覚悟の秋」QB#10 尾崎陽介選手 「タックルの季節」DB#34 山本章貴選手 「超新星の野望」WR#18 前田直輝選手 「継続は力なり」OL#52 渡邉勇士朗選手 |
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