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「最高の安定感」

今季好調のDEERSディフェンス。その最前線で安定感抜群のプレーを見せる選手がいる。コーチからも「彼の代わりはいない」と絶大な信頼を得る。 入部当初は自らのプレーに苦悩したその選手が、現在のパフォーマンスを発揮できるようになった理由に迫る。


 鹿島DEERSのDL倉持悠司を一言で表現するならば「安定感」になるだろう。
 と言って、今季ここまで7試合でタックル6、QBサック0と、数字がそれを示している訳ではない。 ましてや普段から、獰猛だの破壊だのと鼻息の荒い猛者が揃うポジションである。安定などと言えば、かえって反論されそうな気がしなくもないが、 それでもやはり倉持のプレーは安定している。
「荒々しい?イメージはね(笑)けれど、実際は細かい技術が大事なポジション。悠司はそれを身に付けているし、替えの利かない選手」
 昨年からDLを担当する伊藤吾朗守備コーチがそう言うように、決して派手ではないが、倉持は現在のDEERS守備に欠かせない存在である。

倉持悠司選手  175cm、108kg。
 リーグの公式イヤーブック記されている倉持のサイズだ。実際もほぼ同じ。
 190cm、130kg 級のOLが並ぶ現在のXリーグにおいて、向かい合うDLとしては、決して大きいとは言えない。 しかし、倉持はサイズの不利を決して口にはしない。
「まず、スタート。体が小さいからOLに捕まったら終わり。けれど、しっかりスタートをして、 OLが体勢をとる前に下から上に刺すようなヒットができれば、コントロールされることはありません」
 プレーが始まってわずか0コンマ数秒。スタートの勢いで相手との体格差を埋めてしまう。
 そして、ここからが倉持の真骨頂。プレーが終わるまで動きが止まらないのだ。
 その動きを伊藤コーチはこう説明する。
  「フィニッシュまでの動きがイメージできている。だからOLとヒットした後でも動きが止まらないし、笛が鳴るまでボールを追い続けることができる」
 印象的なプレーがある。
11月18日富士通戦  11月18日対富士通フロンティアーズ戦。
 第2クォーター、DEERS陣5ヤード。守備陣はゴールラインを真後ろに背負うピンチを迎えていた。
 ここで相手のランプレーに対し、倉持は低いスタートから、一度はOLに覆いかぶさられるものの、 そこから足を掻き続け、スクリメージを突破。そして同じく隣でOLの壁を割って出てきたDL重近弘幸と共に、ロスタックルを決めた。
「ボールキャリアはほとんど見えていませんでした。でも、なんとなくここに走ってくるだろうなという感覚で、走路を潰しにいっています」
 結局、このシリーズは富士通にタッチダウンを与えずフィールドゴールの3点に終わらせる。試合を通じ相手を0タッチダウンに抑え、勝利に貢献した。
 積極果敢にブリッツを敢行するDEERSの守備。当然、二列目三列目からの激しいチャージに合わせてDLも自ら仕掛けていく動きを求められる。 これが機能すれば、相手に大きなダメージを与えられるが、裏を返せばうまく対応された場合には、ロングゲインを許すリスクもある。 だが、どれだけ動きを読まれていても倉持はその一手先を考え自分の仕事をやりきる。これが、現在、最も安定していると評価される所以である。
 しかし、今のプレースタイルに身に着けるまでの道のりは決して平坦ではなかった。

【柔道からフットボールへ】

 茨城県明野町(現:筑西市)
 筑波山を望む、自然に囲まれた街で倉持はすくすくと育った。
「小さい頃はただ太っていました」
 転機は小学四年生。
「たまたま地元のわんぱく相撲に出たら優勝したんですよ」
 眠っていた彼の筋肉は覚醒し始める。
「怪我をして、町の整骨院に行ったら、そこの先生が柔道をやっていて。勧められるまま柔道を始めました」
 それから高校生まで柔道一筋。
 中学では指導者にも恵まれメキメキと頭角を現し、高校は名門、國學院大學栃木高校へ。
「部活一色でした。朝5時半に起床して、学校に行って部活をして帰宅するのが午後10時くらい。学校が休みの日は合宿で全国に飛び回っていました」
 クリスマス。同世代の男女が色めきたつこの時期にも、国士舘高校の畳の上で乱取りに励んでいた。
「得意技は背負い投げでした。でも、それを出す余裕はあまりなかったですね」
 無差別の団体戦がメインの高校柔道。81kg級の倉持が対峙するのは、100kg超級の相手ばかりだった。
「団体戦は不利だと思われる対戦では引き分けでもいいから、取れるところで確実にポイントを取らないといけない。 とにかく組手を妥協せず、基礎や細かい技術を丁寧にやって、次へ繋ごうと考えていました」
 見上げるような相手を前にしても怯むことなく懸命にポイントを取りにいく。この時から、自分の役割を果たすという戦い方が倉持にたたき込まれていた。

好プレーを決め、DL#90鈴木と喜ぶ
 小学生から高校生までまっしぐらに柔道に打ち込んできた倉持。ところが、高校を卒業すると新たなスポーツ、フットボールを始める。
「同じ高校のエースが全国大会で三位になったんですけど、その選手の柔道センスには敵わないなと」
 ここで柔道への思いを断ち切った。
 高校二年生から本格的に取り組んだ、ウエイトトレーニングに興味を抱いていたこともあり、筑波大学の体育学部へ進学。 トレーニングの専門家を目指しつつ、どうせなら何かスポーツをと思い、大学から始めても通用すると言われたフットボール部に入部した。
「タックルできそうだからLBをやりたいなと思ったのですが、兄にDLをやれと言われ、そこからDLです。 フットボールのことは何も分からなかったですから、言われたとおりにやりました」 2歳年上の兄、和博(現・鹿島DEERS)に指示されるがままDLに。
「OLとの一対一では、最初から結構やれたんですよ」
 高校時代、自分よりはるかに重い120〜130kgの相手と組み合っていた倉持にとって、たかだか100kgほどの学生のOLは、小さいと思えるほどだった。
 徐々にフットボールの魅力に引き付けられていった倉持。チームは1部リーグと2部リーグを行ったり来たりの成績だったが、 就職活動の時期を迎え、もう少しフットボールを続けようと決意。鹿島建設(株)の採用試験を受けた。


【苦悩と継続する意志】

 フットボールを続けられる環境を求めDEERSに入部した倉持。当初は細かいシステムに驚かされたと言う。
「学生の頃は、そこまで緻密な戦術も細かいコーチングもありませんでした」
 ただ、社会人のOLを相手にしても一対一の強さには自信があった。
「負けてなかったと思います。でも、そこで勝ってもタックルできなかったですから」
 ここで、大きな壁にぶちあたる。
 いくらOLとの勝負に勝ってもその脇を走っているボールキャリアを見つけることができなかった。
「振り返ってみれば視野が狭かったなと思います。昔は、OLとヒットしてそれからボールを捜していました。 そうするとボールキャリアがとっくに通り過ぎていることがあって。 それで、OLと勝負している時も、なんとなくでいいからQBとRBを視野にいれるようにしていたら、だんだん見えるようになってきました」
 ある日突然出来るようになったのではない。なんとかしようともがき続け、徐々に出来るようになった。
 入部当時から倉持を見てきた森清之ヘッドコーチはこう言う。
「悠司は、決して器用ではないけれど、出来るようになるまで努力を継続するという才能がある。 物事を成功させるには持続する意志が大切で、結局は、才能のある者より出来るようになるまで続けられる者が最後に勝つ。 それはプレーでも同じことで、悠司はちょっとくらい悪くても、精神的にダメにならない。根気良く続けられるし、波がない」
 一時は本気で悩んだが、継続する意志が途切れなかったことで、安定して結果を残せるようになり、コーチ陣からも信頼を置かれるようになった。
11月3日アズワン戦でタックルをする倉持

【安定のその先へ】

 富士通との連戦となったDEERS。
 11月24日。二戦目に向けた練習に励む三連休の最中。フィールドでの練習を終えた倉持はいつものようにウエイトトレーニングに向かった。
「サイズがない分、トレーニングをやらないと話にならないですから」
 パンパンに膨れ上がった二の腕を見れば、積み上げてきたものの凄みが見てとれる。
 ベンチプレスは最大180kgを挙げる。
「今は朝倉さん(朝倉全紀ストレングスコーチ)の指導のおかげでフットボールの動きに即したトレーニングができています。 その上で重さを挙げるに越したことないです」
 トレーニングにも一切の妥協はない。
 これだけの実績を残し、もう少し遊びの部分があってもいいのではと感じることもあるが、本人はそれをやんわりと否定する。
「もちろんQBサックやロスタックルは狙っていますよ。でも、まず自分の仕事です。大外れはダメですから」
 コツコツと積み上げてきたトレーニングと同様に、今のプレースタイルも長い期間をかけて体に染み込ませてきた。 それを簡単には変えられない。いや、変えてはならないという戒めと言ってもいいのかも知れない。
 ただ、さらに上のレベルを目指したいという欲は常に持ち続けている。
「いい意味で欲張らずに、今よりレベルの高いプレーを毎回やれるようにしたいですね。 本当はスタートの時点でスクリメージを割って、プレーが成立する前に潰してしまうのが理想ですけど。 まずは自分の役割を守りつつプラスアルファで出来ることをやれたらいいなと思っています」
 伊藤コーチ、次の課題は?
「相手が予想もしない動きをすること。これくらい出来るという想定を飛び越えるようなプレーをして欲しいし、悠司なら絶対に出来る」
 明日には出来ていないかも知れない。
 でも、いつか必ず出来るようになっている。


(文章:岩根大輔)



Profile
【くらもち ゆうじ】 1983年9月23日生まれ 29歳 175cm 108kg
出身地:茨城県 ポジション:DL
所属:茨城県明野町立明野中学校−國學院大學栃木高等学校−筑波大学−鹿島
詳細プロフィールは「Members」ページをご覧下さい。


BackNumber
  「覚悟の秋」QB#10 尾崎陽介選手
  「タックルの季節」DB#34 山本章貴選手
  「超新星の野望」WR#18 前田直輝選手
  「継続は力なり」OL#52 渡邉勇士朗選手
  「折れない気持ち」DB#23 栄貴浩選手
  「どこまでも自分らしく」WR#18 永川勝也選手





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